* 無表情 いっそこの目が開かなければいいのにと起床するたびに思う。しかし毎日毎朝、判で押したかのように半ば自動的に我輩の身体は動いてしまう。 今日もまた一日が始まるのだと思うと気が重い。 * 笑顔 朝食を取る為に大広間に行けば、グリフィンドールのテーブルでハリーポッターが「例のあの人が甦った」と主張して周囲の有象無象に気違い扱いされていた。 良い気味だ。 思わず顔が緩むが紅茶をすするふりをして誤魔化した。 * 怒り フクロウが手紙を運んできた。 あろうことかティーカップの中に封筒を落として行った。 学生時代、屋敷妖精を脅して我輩の紅茶だけチップトリーの物にするよう要求した。そして教員としてホグワーツに戻ってもなお、その習慣は続けられている。彼ら の忠義には感嘆を覚えざるを得ない。 それを台無しにした手紙を開けば、グリモールドプレイスは駄犬からの一筆だった。 内容はハリーへの閉心術の指導がどうのこうの、という読むに堪えないお便りだった。 我輩の朝の紅茶を台無しにした挙句、難癖を付けて来たのである。 まあ、あいつは世間と遮断されて十数年経っている故、的外れな事を言い出すのも仕方があるまい。 屋敷で偉そうにわんわんと喚く事だけが仕事なのだ。 そう思って溜飲を下げようと思ったが、学生時代の写真が同封してあって、それが足元に滑り落ちた。 隣の天文学の教師に拾われた。 くそ。 * 悲しみ グリフィンドールのテーブルではまだハリーポッターが主張を曲げずに騒いでいる。 あの馬鹿は本当に馬鹿だ。 自己主張は時と場合を選んでするべきだ。 場を選ばない出しゃばりな性質は父親に似たんだろう。 * 泣く あと1時間も経ったら、未発達なうえに向上心もなく成長の見込みもない生徒どもを相手にしなければいけない。 子供は嫌いだ。 我輩は教職には向いていない。 職業の選択を誤った。 しかし、……。 ……ああ、そろそろ教材をポモーナスプラウトのところへ取りに行かねばならない。 * 照れる 温室に向かう途中、どこからか迷い込んできたのかネコが脚にまとわりついた。上質フラノのローブに毛を付けられてはたまらないので押しやろうとするが、ま だ頭を押し付けてくる。発情期か、こいつ。 「ネコに好かれるんですね、スネイプ教授」いつのまにか温室から出て来たポモーナスプラウトが言った。「動物って人間の本質を見抜くって言いますからね。 はいどうぞ、お望みのムドクアカサボテンです」 彼女は籠を我輩に差し出すと、にっこりと笑った。 * 焦る 籠を受け取り軽く会釈する。 驥尾を返しすぐにその場を去ろうとするが、ネコがフギャーと鋭く鳴いた。何事かと思って足元を見れば、爪がローブに引っかかったらしく必死の形相で伸びて いた。 「あ、あらあら!」 ポモーナが屈みこみネコを手際よく引き剥がした。原因はにゃあと鳴いて駆けて行った。 「……すまない」 「いいえ、災難でしたね」 彼女は人の良さそうな顔で笑った。 * 驚く 本日1コマ目の授業では、誰も鍋を焦がさず、過度な爆発をさせず、倒れず、怪我もしなかった。 奇跡だ。 * 受け 所用の為に屋外へ出ると、雨粒が顔に当たった。 先程までは晴れていたのに我輩が外に出て数歩のところで降り始めるなど、作為的としか思えない。 日頃の行いが悪いのだろうか。 びしょぬれに重いローブを引きずって城へ帰ると雨は止んだ。 ……誰かから呪われているんだろうか。 * 攻め 足元に出来た水たまりでトカゲがおぼれていた。 * 好きな○○の前 トカゲを無視して通り過ぎると、ハリーポッターとその崇拝者達とすれ違った。彼は嫌な顔をして我輩に目礼し去っていった。 背後の気配から察するに、彼らはトカゲを見つけ救ってやったらしい。 余計な事を。 * 嫌いな○○の前 一日がようやく終わる。 ふと窓辺に立てば、屋外の方が暗いせいで窓ガラスにこちらの方が映って見えていた。 ……ひどい顔だ。 重いカーテンを閉じると反射は消えた。 寝台へ潜り込む。 また目が覚めるまでは寝ていられる。 end.
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