NATURAL BOAN ZONBIE OF THE DEAD

広大な敷地面積を誇るホグワーツには、まだ地図に明記されていない個所も多くある。外部から城を守る為に、または後ろ暗い何かを秘めておく為に、深い森に囲まれている。

幾度となく有志の測量集団が勇んで出発したが生還したのは三割に満たず、現在では禁止令が出されるほどである。
唯一、日本出身のチューケー・イノーが17年かけて歩き輪郭のみを判明させた。当時は賞賛を浴びたものの、「そんなもの上空から見れば一目瞭然だろう」と言わざるを得ない。
また、ある理論的事実を信仰している者どもは机上に空論をこねくり回し、「長い紐を持って敷地内をうろつき戻ってきて、端と端を引っ張れば敷地の形が絞り込めるはず」という“ホグワーツ紐理論”を発表したが、実験段階で木に引っかかって失敗した。
その紐は今もモミの木にぶら下がっていて、ホウキで飛ぶ者の迷惑となっている。
早く誰かなんとかするべきだと我輩は思うが、誰もが同感らしくいつまでもそのままになっている。

そのように未開の部分が多いホグワーツなので、未発見の生物も数多く存在する。毎日が新種発見なので学者どもは自分の名前を歴史に残す数少ない好機とホグワーツに侵入しては行方不明になっている。
噂によると、帰れなくなった測量師どもと西の方に独自にコミューンを立ち上げ、偶像と森羅万象をあがめ大地を讃頌して自給自足で生活しているらしい。
ご苦労な事だ。

先日も、見慣れない生き物が森から出て来た。
生き物と言うと語弊があるかもしれない。
なぜなら、彼らは、明らかにゾンビだった。

男女2名ずつの老若男女な彼らはすぐさま生徒達に発見され、校内新聞の一面を飾った。
腐りかけた脳みそでも意思の疎通はできるらしく、生意気にインタビューなど受けていた。
紙面ではゾンビマンがホグワーツの土壌改善を訴え、ゾンビレディが夫人の選挙権獲得を歌いながら主張し、ゾンビガールとゾンビボーイは理想の家庭教師の条件を羅列していた。
ホグワーツには腐るほど教師がいるが、腐敗した彼らの脳みそに生きた知識をたたき込める物など居るものか。


最近は種族間に垣根を設けず、どのような生き物でも公共の福祉に違反しない限り、社会的な生活を送る権利があるらしい。
ところで、“どのような生き物でも”という言葉に人間様のエゴを感じるのだが、それは言葉狩りだろうか。
何の因果か、(たぶん嫌がらせだ)全校生徒投票の結果、我輩がゾンビ達とのネゴシエーターとして抜擢されてしまった。
ゾンビといえど生き物なのだから、魔法生物飼育学の教師が赴くのが道理だろう。
まあ、彼はでかすぎるがために密度の低い脳味噌の持ち主なので、対話は不向きだ。腐った脳とすかすかの脳との交流など何がおこるかわからん。


さて、来る日の午前中。
我輩は一人で森に向かった。
ゾンビにゃ学校もしけんもなんにもないのだろう。相変わらず森の木陰でどんじゃらほいと楽しそうな日常をお送りのようである。

「あー、諸君ら。我輩は対話をしに来た。社会的な生活を送る権利を主張するのならば、しかるべき方法をとるために、行政に連絡をつけよう。差し当たっては、種族登録が必要だ」

彼らが集団でカラスの死体らしきものをむさぼっていてる背後に声をかけると、一体が振り向いた。
頭髪が皮膚ごと抜け落ちた彼は我輩を見るとゆっくりと立ち上がり近づいて来る。
こんなのにも言葉が通じるのか。とかすかに驚愕を覚えたのもつかの間、彼は手を前にだらりと出してこちらに圧し掛かろうとしてきた。

杖を出して炎を放ち、足早に城へ戻った。
のちの調査ににて、彼らは人間に情を持った動物が死んだあと、自らも人間になりたいと強く思う感情が暴走して第二の生を欲した結果、死体が変形し起き上がるようだと言う結論が出された。
死体である故すでに腐っている上に、動物が人間のふりをするのだから、あのようになるのだそうだ。

ところで最近、皮膚にかゆみを覚える。
乾燥のせいだろうか?
かゆい うま









2011/8/10