red data animals

head master




「わしの額縁は、ぜひメープルの素材にしてくれんか」
 スネイプとの話し合いの途中に出た軽口を、ダンブルドアは校長室で一人つぶやいた。独白は深夜の空気に溶けたかと思われたが、思いがけず壁から答えが返ってきてしまった。

「怖くなったのか?」
 若干の驚愕を含むダンブルドアの微笑みを見下ろして、フィニアスは額縁の中で顎を上げ加減に嘲笑する。
「校長になるということは、そういうことだ」
 フィニアスの気軽な口調に、ダンブルドアは静かに首を縦に振り無言で答えた。

 「人間を教育しようとすることは、とてつもない責任を負うということだ。考えても見ろ、多感で全ての景色を吸収する年頃の人間を、昼夜問わずに何年も預かり教育するのだ。教育とは、その人間の精神に干渉するということだ。つまり、我々は生徒らの成す事にまで責任を持たねばならん」
 言葉を丁寧に選ぶフィニアスに、隣の額縁に収められて寝ていた老人が薄めを開けてかすかに頷いた。フィニアスは横目で彼を見止め軽く頷き返す。ダンブルドアはそれを自身でも驚くほど落ち着いた気持ちで眺めていた。
「我々が死んだ後で、我々の教育した生徒が道を踏み外したら? その尻拭いを他の誰かに任せるわけにはいかん。ゆえに、我々は死に絶えた後も意識だけを額縁の中に収め、生徒らの未来まで見守る責任がある」
 ダンブルドアの頭にしっかり言葉が染みていく様子を見て、フィニアスは満足そうに、さらに言葉を続けた。
「アルバス、お前も我々の生徒であった。つまり、我々がお前やその後任の校長達を手助けするのは、そういう理由からだ」
 フィニアスは普段の皮肉に包まれた物言いを捨て、穏やかな顔でダンブルドアに向かっていた。ダンブルドアは不思議な心地良さを感じながらぽつりと呟いた。
「……そろそろわしも、先人達のお仲間に加えさせていただく資格は持てただろうか」
「それはお前が自分で決める事だ」
 フィニアスは鼻で笑い、端的に言葉を切る。そしてまたいつもの苦渋に満ちた面構えに戻ると口の端を歪ませて笑った。





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20007/11/18