red data animals

LOVE DOGGIE

「うるさいわよ、このバター犬!」
 朝食の席で、日々の素行に関する痛い腹を探られて思わずは言い放った。場にそぐわない言葉に後悔しないでもないが、いまさら呑みこむ事は出来ずに黙る。
 トーストにバターを塗っていたシリウスは一瞬目をむくが、の顔を見て苦笑しバターナイフをテーブルの上にころがした。
「俺はどっちかっていうと、ジャムのほうが好きだね」
 そして涼しい顔で平然とスプーンを手にとり、赤いジャムの表面を引っ掻いて器用に跳ね飛ばす。その飛沫はの頬に張り付き、彼女の顔を汚した。
「舐めてやろうか?」
 にやりと笑って舌を覗かせるシリウスに、は顔を赤くしながらもなお強い口調で「できるなら」と言うが表情は明らかにうろたえていた。
 シリウスは満足そうに喉の奥で笑うと、ナプキンを掴んでの顔に押し付けてジャムを拭う。
「悪かった」
「ジャムを無駄にして、モリーに怒られるわ」
 はやり込められた事に対する照れを含めた非難の声をシリウスに向ける。彼は肩をすくめ、彼女の背後へ向けて笑顔を作った。不思議に思ったが後を窺うように首をひねると、重い皿を持つたくましく頼もしい腕がテーブルへ伸びた。
「モリー、モリー、モリー! 悪い事はみんな私のせいなのね!」取ってつけたような嫌悪の表情と厳しい語彙を供にモリーは言った。「いいですよ。人間関係を円滑にする為なのならば、いくらでも悪者していただいて構わないわ!」
「ほら、お許しが出たぞ。もっと言い訳しろよ
 シリウスは勝ち誇ったような声を上げた。はシリウスをさっと睨み、視線を移して照れた笑顔をモリーに向ける。笑みを向けられた彼女は満足げに大きく微笑むと、身体を揺らしてキッチンへ戻った。

「でも、朝の振る舞いにはそれなりのマナーを持つべきよね。お互い」
 ささやくように声を低くしてはシリウスを睨む。その視線を受け流すどころか満足そうに見返すシリウスは鷹揚に言った。
「じゃあ、の申し開きは夜まで取っておくことにしよう」
「ディナーは朝食よりもさらに格調高くあるべきよ」
「俺が期待してるのはその後だ」
 はすでに呆れて口を閉じる。シリウスは口を歪めてニヤリと笑った。






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2010/1/10