1975 september
4
ぽたぽたとの血が廊下に残り、通路を行く他の学生が好奇の目で二人に注目していた。その視線を振り切りようにスネイプは歩みを進める。
「足が、ものすごく、痛い」
はスネイプの首に腕を回し、彼の胸元に顔を押し付ける。スネイプは顔をゆがめるだけで、の言葉を無視した。
「シリウス。あの人、私がスリザリンだからって文句をつけてきて」
「……あいつらは理由はなんでもいいんだ。ただ自分達の力を誇示したいだけで。相手をしなければいい」
「寮だけで人間を判断するなんて間違ってる」
「……その点では、不本意だがあいつらに同感だ」
「でもあなたは、リリーと仲が良いじゃない」
はスネイプの顔を見上げる。しかしスネイプは前を向いたまま口を固く結び、それ以降口を開く事は無かった。
病棟に到着するとスネイプはをイスに下ろし、マダム・ポンフリーに必要な薬品を告げた。
は痛む足を涙目で見下ろしていたが、マダムにもスネイプにもこの程度の怪我は日常茶飯事なのか慣れたものだ。マダムは呆れた視線すらに投げている。
「すこし痛みますよ」
マダムは薬の入ったガラス瓶の口にガーゼを当てて薬剤を染み込ませる。そしての足元に屈みこんで傷にガーゼを押しあてた。
「痛いぃ……!」
沸騰するような痛みが皮膚を襲い、は顔をしかめる。マダムは同情を顔に浮かべ、彼女を安心させるように微笑んだ。
「呪いを浄化しているのよ。すぐに終わるわ。そうしたら傷を治してあげるから」
「うぅ……」
は恨みがましい目でスネイプを睨みつけるが、彼は冷ややかな視線で見下ろすだけだった。
「罪悪感とかないの?」
治療を終えて治療室を出るとスネイプはと逆方向に去ろうと驥尾を返すが追われて叶わなかった。
大股に歩くスネイプの横に傷めたばかりの脚で並んだ。
見上げて睨む眼が煩わしく、スネイプは視線をはずして前だけを見ている。
「たとえば? 俺がお前に何を感じると言うんだ」
「私が、あなたの呪いで、怪我した」
「逃げ損ねたお前が悪い。それに、義務は果たした」
「治るまでが怪我です」
「もう治っただろう」
「心の傷のほう」
「……相手にしてられん」
スネイプは心の底から呆れたという顔をして見せるが、しかしそれ以上歩みは速めずに寮へと戻った。
2011/8/25