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(※注意※ 7巻終了後なのにスネイプが当然のように生きております)
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「セブルス、セブルス起きて」
「……なんだ、鬱陶しい」
夏の暑さも過ぎた明け方は惰眠を貪るには持ってこいの気温でる。……はずである。
いつもならば人一倍無駄に眠っているが傍らで身体を起こして我輩の名前を読んでいる。
面倒に思いながらも目を開けると、いつもと変わらぬ様子の部屋が目に映る。
大違いなのは部屋の気温である。2月の夜更けと変わらぬ冷気が肌を刺すように襲ってきた。
が自らの肩を抱いてがたがたと震えている。
「ねえ、寒いんだけど……」
「なんとかしろ、杖を振るえ」
「ためしてるけど! ムリなの」
「……お前だからだろう、役立たずめ」
ベッドサイドから杖を取り、振ってみるがの言う通り効果が無い。
試しに灯りや風を出す(「寒い!」とに抗議された)呪文は平常通りに行えるが、どうやら気温に関する呪文がより強い力で打ち消されているようだ。
「どういうことだ……」
「もう……城の温度調節の機能が壊れちゃったのかしら?」
「ああ。そうかもしれんな」
冷気から身を守ろうとブランケットを身体にきつく巻き付けると、隙間にがくっついて来た。幸い彼女の体温の方がいくらか我輩の表面温度よりも高かったので快く迎えてやる。
ホグワーツは城内の気温が気持ちよく保たれるような呪文をかけられている。
夏は暑く、冬は寒くといった心ばかりの季節感は考慮されているが、死んでしまうほどではない。
「ゴーストか」
「え?」
「先日、教師達でヴォルデモートとの戦いで痛んだ個所の呪文をかけ直しただろう、その時に不備があったんだろう。きっとお前が間違えたんだ」
「失礼ね!」
「……それか、ゴーストが紛れこんだかのどちらかだ」
「彼かしら?」
ゴーストとは肉体を持たない純粋な魔力の塊である。
時としてゴーストの意思とは関係なく、魔法をかけている最中に近くに居るとに大きな影響をもたらす事がある。
ホグワーツでは城の運営に重要な呪文のかけられている部位には厳重なゴースト避けが施されているのが普通だ。
なぜゴーストになるのかと言う原因はいまだに解明されていない。
肉体という雑味を持たないゴーストは純然たる思考の塊で、言いかえれば、生きていた人間魔力だけが地上に残留した結果である。その為、動物やマグルのゴーストは少なく、魔法使いは比較的ゴーストになりやすい。
「そのうちに誰かが何とかするだろう、我輩は眠い。もう面倒事は沢山だ」
「ああ、そう、静かに余生をお過ごしになるつもりね?」
「うるさいな、お前も寝ろ」
暖房器具ほどではないが、多少の熱源にはなっているを抱きかかえているとまどろみがやってきた。
眠りの端でゴーストについて想いを巡らせる。
近頃、ホグワーツではゴーストが大量発生している。ヴォルデモートとの抗争の際に多くの人間がホグワーツで死んだのでそのせいもあるだろう。
そして、その中で最も性質の悪いゴーストが赤毛のゴーストだ。
彼は青年のゴーストで、名前は何と言ったか。聞いたが忘れてしまった。確か、“支配者”とか“平和の王”とか自称していたような気がする。迷惑をかけるくせに何を言うのか。
ピーブスとその彼が手を組んだのでさらに忌々しい存在になっている。
ゴーストとは本来、物理的な影響を与える事は出来ないのだが、ポルターガイストと手を組むことで、さらなる迷惑をかける事を可能にしたようだ。
ピーブスも面倒な奴だったが、少々頭の悪いところがあるので迷惑行為も悪戯の域を出なかった。しかし、今回ホグワーツに湧いて出て来たゴーストはなかなかに悪知恵の働くやつで、非常に鬱陶しい想いをしている。
朝食の大広間で皿を跳ね飛ばして行くのはまだいい方で、酷いときはテーブルごとひっくり返す。ついでにイスも跳ね飛ばす。
授業を妨害し、深夜に眠っている生徒や教師達を騒音で叩き起こす。最初のうちは翻弄する職員どもを見て笑っていた生徒達も、被害を被り続けて辟易している様子だ。
「対・苛々の王」団を結成して彼らを抑え込もうと努力しているようだったが、ことごとく返り討ちにあい、酷い有様で散っていった。彼らの雄姿はムダになった。
城内に住む人にあらざる者はしばしば厄介な事をしでかすが、彼の起こす問題はいささか度を越していた。おそらく、生前の鬱憤をはらしているのだろう。きっと暗く陰険な奴だったに違いない。……将来の自分の姿が見えたような気がして少し落ち込んだ。
我輩もゴーストへの対策は彼の出現前から取っていた。
奴らは厄介な存在である。
夜毎に父親が出てきて死因は毒殺だったと告白されたり、魔法薬を煎じるかまどに金を出せと言われたり、クリスマスの夜に3人の幽霊に道徳を語られても困るので、それなりに講じていたのである。
部屋の壁材には聖別したマホガニー材を使用し、木材の裏側には有名な坊主に手ずから経を書かせる念の入れようである。そしてさらに全世界津々浦々から集めた魔よけの細々とした物をさりげなく配置していた。
しかし、彼はそんなものなどお構いなしに我輩の部屋にまで侵入していたらしい。たまに、魔法薬の材料などが荒らされていた。そして関連する書籍を開いた後もあり、なかなかに勤勉な奴である。
にぜひ見習わせたい。
……はゴーストの痕跡をおもしろがり、彼が何を成そうとしているのかに興味を持っているようだった。
「彼、最近は厨房の屋敷妖精と親しくしてるらしいわよ」
「そうか」
「あと、まだ人間とは意思の疎通が出来ないらしいわね」
「それは興味深いな」
「まだ姿もぼんやりしてるし、まだゴーストになりたてなのかしら?」
「そうだろうな」
「ちゃんと聞いてる?」
「ああ、しっかりと聞き流している」
ぼんやりと眠りのはざまで適当に相槌を打つ。
しかし、の言う事にも一理ある。
ゴーストとは残留思念の塊なので実態がない。ゆえに、彼らに干渉するためには呪いなどの魔力で対応するしかない。
あれほどの警戒をかいくぐって侵入したのだから、かなり年季の入った死者なのかと思っていたが、死にたてで活きが良い為にゴースト避けの呪いが効いていないのかもしれない。
数日後、深夜まで魔法薬学の教室で細々とした仕事をしていると、空気を震わせるようなかすかな声がした。
聞いただけで神経を逆なでする声音は人間の声帯を通した振動ではない。
「やあ、スネイプ。ひさしぶりだな」
ふと視線を上げれば、目前に半透明のものが漂っていた。ゴーストだ。しかし、無視して机の上の文字を追う。
我輩、なるべく面倒な事柄は避けて通りたい性質なのだ。
「なあ、おい、スネイプ!」
「……なんだ」
このゴーストはしつこいようで、ついにはインク瓶を倒そうとしはじめた。根負けをして視線を合わせれば、たちまち後悔をした。
これは、あの赤毛の片方だ。懐に何かを抱えている。
「なあ、スネイプ。あいつに手紙したいんだ」
「好きにしたまえ」
「出来ないから言ってるんだろ、代筆してくれよ」
「断る。もっと頼むべき人間がそこらじゅうにいるだろう」
たとえば、比叡山のイタコとか。彼の顔色をうかがうと、相変わらず青白く曖昧な表情をしていた。
「……なぜ我輩を?」
「死人をずっと愛してたあんただ。橋渡しには最適だろ?」
「なにを……」
「死ぬとな、いろんな事がわかるんだ。うらやましいか?」我輩の嫌悪の顔を見届ける前に彼はにやりと笑った。「それとさ、嫌だろ。なんか、ほら……二度も別れるって。……書いてくれよ、な?」
死んだ赤毛の髪の毛はただ青白く半透明だった。
顔をしかめ、新しい羊皮紙を用意してペンを手に取ると、彼は青ざめているくせに頬を隆起させて笑い、語り始めた。
なあ、兄弟。元気か。
俺は元気じゃない。
活動はしてるけど、別に元気じゃない。
幽霊になった時、すぐにお前のところに飛んで行こうかと思ったけど、やめた。
会えばまた別れなくちゃいけないだろ?
そんなのは嫌だ。
だから、一方的に手紙を送り付けるだけにしようと思う。
言い返せなくて怒るだろうけど、お前は生きてるんだから、それくらい許せよ。
たぶん、お前も、俺が死んじゃって死ぬほど悔しいだろ。
俺も悔しい。
幽霊ってのは気分の悪いもんだ。
死ぬ瞬間の少し前の状態から一切変わらない。
この先、何の成長もないって感じが心の奥から足の先まで染み込んでる。
そんな俺が、これから先楽しい事ばっかりのお前の横でぐずぐずするなんて吐き気がする。オエー。
だから、俺は、お前よりも成長してやろうと思った。
これからお前が体験する新しい事を全部足したのとイコールになるくらいのな。
死んでから新しい物を生み出すってちょっとスゴいだろ?
そんなわけだから、いいか兄弟。よく聞けよ。
俺たちは死ぬまで、死んでからも、対等だ。
ざまあみろ!
……。
「おい、続きはどうした」
ゴトリと何かが落ちたような気がして顔を上げると、いつのまにか、赤毛のゴーストは姿を消していた。
床には何か小包が落ちている。
我輩にわざわざと書かせたくせに、このような不明瞭でセンチメンタルな文章しかのたまう事が出来ないのかと腹が立ちそうだったが、無感情に紙を折り曲げて封筒に入れた。フクロウを呼び寄せて小包と手紙をホグズミードの赤毛の店に送らせる。
後は知った事ではない。
後日、学園内で新たな悪戯が大流行した。
なんでも新商品らしい。生徒から没収したついでに成分を探ってみると、先日我輩の魔法薬収納庫から紛失した物ばかりが原材料として使われていた。
まったく、死んでからも迷惑をかけるとは懲りない奴らだ。
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本当に自己満足でしかないんですけど、これはなんとなく7巻後のホグワーツとして書きました。(なんでスネイプ生きてるんですか、とは聞かないで!)
ヒマな人は「名前 語源 平和 統治者」
http://www.google.co.jp/search?hl=ja&client=firefox-a&hs=Ve9&rls=org.mozilla%3Aja%3Aofficial&q=Frederic++%E8%AA%9E%E6%BA%90+%E5%B9%B3%E5%92%8C+%E7%B5%B1%E6%B2%BB%E8%80%85+&aq=f&aqi=&aql=&oq=&gs_rfai=
でググってみてください。
こんな未来だったらいいな。
あと、
「毒殺された父親」はハムレットの父親。
クリスマスに3人の幽霊は「クリスマスキャロル」
かまどから「金出せ」は落語の「へっつい幽霊」
スネイプの知識の範囲はおかしい(笑。
2011/9/22