王様


(グリフィンドールの面々が酷い目にあってる話なので注意)






 ビロードの赤い絨毯をゆっくりと歩き、金の玉座に落ち着く。赤と金の色のコントラストには吐き気がする。明日までに灰色と緑の色調に統一するように命じ よう。この城は本当にセンスが悪い。
 この城はもともとこのあたりの土地を治めるジェームズポッターのものだったが、巧妙で狡猾な作戦のおかげで我輩、今この座についている。彼等は騎士道精 神にあふれた者達だったが、獅子も足下の毒蛇にはかなうまい。

 我輩、この国に最初に訪れた時には宮廷魔術師としてもぐりこんだ。  もともとこの城にはダンブルドアという白髪白髭の代表的魔法使いの標本のような老人宮廷魔術師が住んでいた。しかしとうに耄碌していて、ロウソクの火を を見て「フォークスや」と語りかけ、火の粉を見ては「ピノコや」と語りかける変態だった。
 そこで偉大なる手塚治氏のマンガ「火の鳥」「ブラックジャック」を与えると、貪るように読んでいたので、オタク、オタクとはやしたてたら泣いてどこかへ 旅立ってしまった。風の噂によると、今ではガンダルフと名前を変えて別の村に住み着いているらしい。あいかわらずペテンや手品まがいの術を偉そうに披露し てはちやほやされているらしい。そのうちその村に攻めに行こう。そうしよう。

 グリフィンドールは何か行動する前にはかならずダンブルドアの承諾を得たりしたりしていなかったり結局したりしていたので、彼の居なくなった国の政が麻 痺するのは時間の問題だった。
 国王であったジェームズポッターは腹心のシリウスブラック大将、リーマスルーピン軍師とともに地下牢に放り込んだ。3人集まるとどんな知恵が湧いて出て くるかわからないので、もちろんそれぞれの特別室を用意した。彼等の悲鳴とか苦痛とかそれに似た声を聞くのが、我輩3度の飯より好きだ。

 軍師は異様に月を嫌う。弱点は克服せねばなるまいと我輩は考えた。そこで、彼には月に3日ほど月光欲を楽しんでもらうことにした。我輩、なんて親切!
 そして彼はどうやら草木を愛するナチュラリストだったので、娯楽として植木鉢や種などの園芸用品を与えた。娯楽の少ない地下牢で健気に育つ草を見て彼は 非常に喜んでいた。しかし、情が移ると草が枯れる別れの時にさぞ辛いだろうと我輩は心配し、先ほど彼の居ぬ間に引っこ抜いておいた。今ごろは根まで乾燥し ているだろう。健康的な月光欲から帰った彼の顔が浮かぶようだ。

 大将からは犬畜生の臭いを感じたので、大量のサルと相部屋にした。この国は大分南のほうに位置していてサルは腐るほど生息していた。ちなみに彼に与えた 最初の労働は、サルたちを森から捕まえることである。サルを追うあの男の顔はなかなか見ものだった。
 今度の火曜日にはバナナを栽培させる予定だ。しかし、彼は軍師ほどにはマメな男ではないだろう。だからきっと木を実のなる前に枯らしてしまうだろう。そ の時には、枯れた枝を無理やり口に突っ込んでやろう。植物の命の尊さを学べるようにな。

 王であったジェームズポッターは顔も見たくないので、もう3週間ほど顔を見ていない。たぶん彼も3週間ほど日の光を見ていない。最初は庭で球を使うス ポーツの余興をさせて見物していたが、飽きたのでやめた。
 息子のハリー王子は階段の下の物置に住んでもらうことにした。深夜に彼の部屋の上の階段を足を踏み鳴らして歩くのが趣味である。王子はいつ暗殺されるか わからない身分のだから、日頃から深夜の物音に注意する癖をつけておいたほうがいいという我輩からのささやかな忠告である。真摯に受け止めて欲しい。

 まあ、このように毎日楽しく暮らしているのだが、先日旅の吟遊詩人がこの国に立ち寄った。娯楽に飢えていた我輩はすぐさま城に招きいれた。しかし彼は吟 遊詩人というか、道化だった。
 彼は名をロックハートといい、目に毒々しい紫の衣の裾をひきずり、金の髪をなびかせ、長いマツゲをばさばさと揺らしていた。彼の仰々しくリアリティーの ない武勇伝を3時間ほど聞かされたが、まったくおもしろくなかった。
 たしかに彼は素晴らしく美しい外見を持っていた。すこしでも美の感性を持っている人間ならば、彼の冒険話を聞く振りして顔を見つめればそれなりに楽しめ るのだろう。しかし我輩、美に特に執着はない。
 それどころかあまりにも自信で溢れている奴の態度が気に入らなかったので、トイレの太いパイプに押し込んだら、そのショックで記憶をなくしてしまったら しい。今はどこで何をしているかは知らない。

 おや、そろそろ夜明けの時間だろうか。リーマスルーピンの失望する顔を見るために、地下へと急ごうではないか。その前に階段を通ろうか。それとも犬を躾 に行こうか。
 こうして、今日も我輩の我輩による我輩のための太陽は東からへ昇るのだ。

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